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これでこの理科室での秘め事も最後になるんだ。

万華鏡の完成を喜びながら、私はそんな寂しさを内心で噛み締めていた。


「…わー! 綺麗綺麗!」


夏見の作った万華鏡を覗くと、夏見らしい寒色系の世界が広がっていた。

憎らしいことに、私よりもずっと配色や素材選びのセンスがある。


「私の、どう?」

「普通」

「…あぁ…、うん、普通ですよね」


愛想のないコメントにがっかりしつつ、私は万華鏡を置いて窓を眺めた。

外はまだまだ明るい。

カズヤが友達と遊ぶと言って何もしないで帰っていったおかげで時間はたっぷりある。


「このあと作る予定のものって何かあるの?」

「…鏡、もう使わないから勝手に使っていいって」

「えっ!? 先生に聞いたの?」

「うん」

「じゃあしばらくは万華鏡作り一筋?」

「多分」


そこで私は、またここで一緒に物作りができるかもしれない…という浅ましい期待を抱いてしまった。

…いや、でもさすがにもうウザがられるだろう。


「そっかぁ…。完成したら見せてねっ?」


『私も一緒に作りたい』その一言を飲み込んで、私は上っ面な笑顔で当たり障りのない言葉を吐いた。


「オイルマーブル作る」

「オイルマーブル?」

「ガラスの玉の中にグリセリンと具材が入ってるやつ」

「へぇー! 凄い! ガラス細工できるのっ?」

「とんぼ玉とか…簡単なものなら」

「えええっ!すごいすごい!」

「球体の中にキノコ入ってるとんぼ玉作れる」

「あっそれ知ってる!気になってたやつだ! いいなぁーっ私も前々からガラス細工やってみたかったんだよねー」


「…やる?」

「へっ?」

「大体の道具は残ってる」

「え? ど、どこに?」

「家」


…まっ…

待って、ちょっと待って

…それは…っ


“俺ん家でとんぼ玉作り教えてやるよ”って言ってると解釈して宜しいのでしょうかっ!?


「…なつっ…」


──ガチャガチャッ!

「っ!!?」


『夏見の家に行ってもいいの?』そう聞こうとした瞬間、理科室のドアが乱暴な音を立てて揺れ動いた。


「あー、やっぱ鍵かかってるよー」

「ま、こんなのヘアピンで開くべ」


外から聞こえてくるのは2人の男女の声だった。


私と夏見は顔を見合わせる。

こればかしは夏見も動揺をしているのか、いつもの眠たそうな面持ちが少し強張っているように見えた。


もし入ってこられたら面倒なことになるかもしれない。

どうすればいいかわからずオロオロしていると、夏見が私の腕を力強く引っ張った。



──ガチャンッ


「ほら開いたー」

「さっすが」


ドアの開く音を聞き、私はギュッと目を閉じる。


…どうしよう。心臓が破裂しそう。


鼓動をおかしくさせているのは2人が室内に入ってきたから、というだけじゃない。


夏見に連れられ、私たちは教卓の中に潜り込んでいた。

大きな造りとはいえ、高校生2人が隠れるにはかなり体を寄せ合わさなきゃいけない。


夏見の呼吸の振動が伝わってくるほどの密着感に、私の心臓は爆発寸前だった。

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