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…やっと5日…。

ベッドから壁にかけたカレンダーを眺めて、深いため息を吐く。


まだたったの5日。1週間すら経ってない。


あまりにも遅い時間の経過をまざまざと実感させられ、私は寝起きでボサボサの頭をだらりと垂らしてうなだれた。


あの日の出来事は忘れるどころか日を追うごとにどんどん色濃くなっていく。


身体に触れた熱い感覚、胸を刺した言葉、それまでの幸せだった思い出…

それら全てが、ふとしたときに溢れだしては胸を締め付ける。


あれから夏見とは目すら合わせていない。

夏見の姿が視界に入らないように必死に彼を避けて過ごしている。

早く全てを忘れるために、どうにもならない傷心に捕らわれないように、ずっと心を殺し続けている。


いつまでこんな状態が続くんだろう。

私はちゃんと吹っ切ることができるんだろうか。

…まだこんなに、こんなに彼の体温がこの手に残っているのに。

いっそのこと記憶が全部丸ごとなくなってしまえばいいのに。



…今日もまた長い長い1日が始まる。


手の疼きを払いのけるようにぎゅっと握りしめ、もう一度ため息を吐き出して私は気だるくベッドを降りた。




・ ・ ・ ・ ・


学校にいる間は本当にもどかしいくらい時間が経つのが遅く感じる。


闇雲に授業に集中して休み時間は友達に話しかけたりして、なるべく余計なことは考えないように放課後までを耐えしのぐ。

そして何度か感傷にさらわれそうになりながらも、なんとか今日も最後の授業を乗り越えた。


…やっと帰れる…。

そう安著したのも束の間、今日は理科室の掃除があるんだと思い出して私は一気に心を打ち砕かれた。


あそこに行ったら、何が何でもあのときのことを思い出してしまう…。


どうしよう。仮病を使って逃げてしまおうか…。


そんな卑怯なことを考えたけれど、こんな風に避けてばかりいたらいつまでたってもこの鉛のような重々しい気持ちを乗り越えることはできないと思い、意を決して私は理科室へと向かった。


──ピピピピッ


同じ当番の友達と他愛無い会話をしながら階段を下りていると、ポケットから携帯の受信音が響いた。

条件反射で心臓がギクリと鈍く痛み出す。

このタイミングでのメールは、もう嫌な予感しか湧かない。


『掃除終わったら理科室で待ってて』


予想通りの内容に、うんざりとした溜め息が漏れる。


「何? どうしたのー?」

「うーん…ちょっと面倒なことがあって…」

「へー。…もしかしてカズヤ?」

「う、うん…」

「えーっ、うまくいってないの?」

「うまくいってないっていうか…うーん、まあ色々あってね」


色々って?と聞き返されたけど、私は曖昧な笑みを返して言葉を濁した。


メールは返さず、携帯をポケットに戻す。

…あの場所ではもう絶対にすることなんてできない。

今日こそははっきり断ろう。


それで嫌われてしまったら、しょうがないと諦めるしかない。

…そもそも、最初から好かれてなんかなかったんだし。


“ただ都合良く使われてるだけだろ”

彼の言葉がよみがえり、ふと自虐的な笑みが漏れる。

…そうだよね。私は都合のいい馬鹿な女だよね。


でもきっともうすぐ終わりがくる。

短い間だったけれど夢が見れて良かった。


少しは悲傷から立ち直ることができたのか、それともヤケになっているのか、カズヤに捨てられて独りぼっちになるということを自分でも不思議なくらいアッサリと受け入れていた。

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