トイレの個室で 01 02 03

 

「山田君っ!ごめん、これ半分持ってくれる?」

「え? ああ、いいよっ」

私は暇そうにしていた男子に声を掛け、山積みになったノートの半分を手渡した。

ちゃんと黒板に書かれたことを写しているか、しっかり課題をやっているかをチェックする為に集められたクラス全員分のノート。

たまたま今日が日直だったということで私はそのノートを職員室の先生の席まで持って行く係りに任命されたのだ。

「もー、自分で持ってけってのね、バカ先公」

「ははは、アイツ年寄りだから重いもん持てないんだって」

楽しく雑談しながら私達は職員室のある3階に到達した。


……先輩いるかな…

私は挙動不審に辺りを見回す。

ノートなんて大した重さじゃない。

一人で普通に持って行ける。

なのにわざわざ男子に手伝いを頼んだ理由はただ一つ……

…いた…っ!

壁を背もたれにして他の3年生と仲良く雑談をしている背の高い男子生徒。

私の存在に気付くとほんの一瞬だけ驚いたような顔をしてすぐに目をそらした。

…ちぇ。今日もまた反応なしですか。


彼は3ヶ月前に付き合い始めた私の初めての彼氏。

体育祭の係で一緒になって、ぶっきらぼうなんだけど物凄く優しいその性格に見事ハートを打ち抜かれ、

そして私は体育祭当日、2人きりになったのを見計らって玉砕覚悟で告白した。

奇跡が起こったのか先輩の気まぐれなのか返事はなんとOK

あっさり交際を果たせたのだ。

これからは夢に見た先輩と幸せなイチャラブ生活…!

のはずだったんだけど、私は最近どうしようもない不安にかられている。

 

相変わらず私に優しく優しく接してきてくれる先輩。

私の弱音や愚痴はなんでも聞いてくれるし、子供じみたワガママも笑顔で受け入れくれる。

先輩が私にワガママを言ってきたことなんて一度もない。

初チューも初エッチも私から迫ったようなもんだし…。

優しくて…優しすぎて、逆に先輩は私なんか好きでもなんでもないんじゃないか。暇つぶしの為に適当に私を選んだんじゃないか。

そう思うようになってきた。

嫉妬心を誘ってみようと何度もこうして男子と楽しそうにしてるところを見せ付けてきたけど、先輩はまるで反応を示さない。


…やっぱり、先輩は私なんかどうだっていいんだ…っ

バカ!先輩の人でなし!

いいもんね、こっちだって好きにやらせてもらいますよ!!

「ねぇっ!山田君、今日暇? 放課後一緒にカラオケ行かないっ?」

私は先輩の耳に届きそうなくらい大きな声で山田君に話し掛ける。

「え…っ、えぇっ? ふっ2人でっ?!」

「うん、よかったら行こっ?」

未練がましく横目でチラリと先輩のいる方を見る。

だけどそこに先輩の姿はなかった。

…そういえばさっきチャイム鳴ってたっけ…。

もう教室に戻っちゃったのかな…。

「…っ…」

悔しさなのか悲しみなのか、急に涙が込み上げてきて私はグッと唇を噛み締めた。

「ヤバ、もう授業始まるな。早く戻ろっ」

「う、うんっ」

先生の机にノートを置いて私達はすぐに職員室を出た。

廊下にいる生徒ももうまばらだ。

急いで階段へ向かう。

 

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