秘め事 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12


今日はクリスマス。

一年の中でもっともロマンチックな日。


美しいイルミネーションに囲まれた街を愛しのマイダーリン、ヒロくんと歩いて、ちょっと奮発して高めの居酒屋へふらり。


美味しい料理とお酒で私もヒロくんもいいカンジにほろ酔い気分。

そろそろ、最終目的地ラブホテルへ行こうかと切り出される頃かな…。


でもその前にヒロくんにとっておきのクリスマスプレゼントを渡さなきゃ。

ホテルに着いてからでもいいんだけど…、だって早くヒロくんの喜ぶ顔が見たいんだもんっ。


「ねぇねぇヒロくんっ、これ…クリスマスプレゼント!」

そう言って私は可愛らしくラッピングしたプレゼントをヒロくんに差し出した。


「えっ、マジ!? サンキュー!」

「ヒロくん腕時計欲しいって言ってたでしょ? 気に入ってくれるかわかんないけど…」

「時計? マジでっ!?」


プレゼントを受け取るとヒロくんはすぐさま包装紙をビリビリと破き始めた。

…キャラメル包装のアレンジバージョンで結構時間かけて包装したんだけどな…。

うん、まあ、早く開けて見てもらいたいからどうでもいっか!


…そして、出てきた黒い箱をヒロくんは満面の笑みを浮かべて開いた。


「…えっ、何これ」

「手作り腕時計だよっ!」

「手作りって…またお前が作ったのか?」

「そう! 未吉雨男時計のデザインを参考にしてねっ、ベルトもバックルも頑張って作ったんだよ! 凄いでしょ!? アンティークな感じがイイよね! 世界に一つだけのオリジナル時計だよっ!」


「…帰る」

「んぇ?」

「もうお前とは付き合えねぇ。別れるわ」

「えぇえっ!?」


ヒロくんも私と一緒に大興奮してくれるかと思ったのに…、出てきた言葉はあまりにも意外なものだった。


固まる私をよそにヒロくんは席を立ち、さっさとお店のドアへ歩いていく。


「…まっ、まま待ってよ!!」


ヒロくんが外に出て行ったところで真っ白になった頭が正常に戻り、私も慌てて鞄に時計を詰めて立ち上がった。


急いで会計を済ませてお店から飛び出すと、ヒロくんはだいぶ遠く、マッチ棒サイズくらいになる所まで行ってしまっていた。


「ヒロくんっ、ヒロくん! 待って!!」


全速力で追いかけ、必死で呼び止める。

振り返ったヒロくんは眉間にシワが寄っていて、いかにも不機嫌という様子だ。


「なんで帰っちゃうのっ? 別れるって嘘でしょ!?」


…これはきっとサプライズ企画だ。

別れるとか言って不安にさせて…、ホラあのお店の電光看板が『あいしてる』って文字に変わって私をチョー感動させるとかそんな魂胆なんでしょっ?!


その期待を胸に寄せ、私はヒロくんにヘラリと力無く笑いかける。


「重いんだよお前。見た目と中身ギャップありすぎ。それで時計だのお菓子だの作ってくるとかマジないわ」


「えっ…、ご、ごめん…。喜んでくれると思って…! でももう作んないから…っ」


「ヤリマンっぽいからエロいのかと思ったのに全然だし。フェラ下手だし」

「そっ…」


そっそんなこと、こんな所で公表しないでよ!

と口に出そうと思ったけど、すれ違う人たちと視線がぶつかり、恥ずかしくなって私は顔をうつむかせた。


「お前といると疲れるわ。…じゃーな。ストーカーとかになんなよ」


「…や…っ! やだ、やだっ! 待って…!」


クルリと方向を変えて再び私の前から去ろうとしたヒロくんの腕をとっさに掴み引き止める。


「やだ、別れたくない! 重いとことか直すから…っ」

「うぜぇ!」

「っあ…!」


力いっぱい手を振り払われ、私は豪快に尻餅をついた。

その拍子に鞄から時計が転がり、雪の中に埋まってしまった。


…ああ…っ! 非防水の時計が!

完成まで4ヶ月もかかったのに!!


光の速さで時計を救い上げ、針を凝視する。


…カチ、カチ、カチ…


正しく稼働している秒針を見てホッと一息。


「はぁーー…」

…一息のはずだったんだけど、随分と長く深いものになってしまった。


“重い”“疲れる”

…そう言われて振られるのはこれで5回目だ。

  Top Next


inserted by FC2 system