アイスプレイ 01 02 03 04 05 06 07
『日中の最高気温は33度。本日も殺意が湧くほどの真夏日となるでしょう』
「…あぢー」
「あづぁーー」
4畳半の色あせた畳の上に優奈と遥斗は打ち上げられた巨大イカのようにでろりと横たわっていた。
窓を全開にしてはいるものの、流れてくるのは神経を逆なでするセミの大合唱ばかり。
隅に追いやられたちゃぶ台の上の扇風機は暑苦しい空気を掻き回すだけで、誠意というものをまるで感じない。
景色が揺らめくほどの熱に包まれている2人はただ寝そべって呼吸をしているだけなのに、額や首筋に球の汗を浮かべていた。
「あー…アイス食いてぇ…」
「さっき食べたばっかじゃん…」
「いや、でも食う」
「あぁっ、私も食べるっ!」
立ち上がった遥斗に慌てて声をかけ、優奈は気だるく上半身を起こした。
2ドアの小さな冷蔵庫の上のドアを開け、こぼれ出す冷気に癒やされつつ遥斗は棒アイスの箱をあさる。
「あ。ヤベェ」
「えっ、何?」
「これでラスト」
「ええーっ?! 昨日買ったばっかりなのに!」
愕然とする優奈にアイスを投げ渡し、遥斗は我先にとビニールを破いてアイスを口に含んだ。
「…あれ?」
その様子を眺めていた優奈が、自分と遥斗のアイスを見比べてポツリと声を漏らす。
「どーした?」
「なんで遥斗が苺ミックスなのっ? ずるいっ、私そっちがいい!」
渡されたアイスは白一色のミルク味。
対する遥斗はピンクと白のマーブルがなんとも乙女心をくすぐる苺ミックス味。
最後なんだから私に譲ってよ、と優奈は手遅れにならない内に早急な交換を求める。
しかし遥斗も無類の苺ミックス好き。
敵意を眉間のシワに表し、断固としてアイスを手放さない。
「自分で取りに行かなかったお前が悪い」
「だって遥斗がさっさと取りに行っちゃうんだもん! ズルいズルいズルいーっ!」
「早く食わねーと溶けるぞ。つーか溶けてる」
「え? うわっ!」
遥斗に指摘され、ふと手元に目をやると、早くも暑さに負けたアイスがビニールの中に白い雫をこぼしていた。
優奈は急いでビニールから泣き濡れているアイスを救い出し、口に運ぶ。
「…んーっ、美味しぃー」
苺が入っていないとはいえアイスはアイス。
口内に瞬く間に広がった至福の食感に優奈はうっとりと目を閉じ、火照った顔を解きほぐした。
たかだか苺ごときで荒だった自分が恥ずかしいとすっかり鎮静された優奈は夢中になって甘味に浸り尽くした。
「…ん」
「ふぇっ?」
それから数分後のこと。
穏やかな表情に戻った遥斗が残り半分になったアイスを優奈に差し出した。
彼もまたアイスに癒やされ、良心が生まれたのだろう。
「…いいのっ?」
「はよ食え」
瞳を輝かせて尋ねる優奈に遥斗はぶっきらぼうに言い捨てる。
「えへへっ、ありがと! …あー…んっ!」
「あ゙ぁっ!!」
「んぐっ!?」
和やかムードを一裂きした突然の怒声に優奈はビクッと肩を跳ね上がらせた。
そして何事かとその声を発した遥斗を見上げると、遥斗はアイスのなくなって棒を持ち、落胆と怒りのオーラを滲み出していた。
「…誰が全部食っていいっつった?」
「え?! 全部くれるんじゃないのっ?」
「なわけねーだろアホ! 一口だ一口!」
「あっ、あほぉ!?」
悪態をぶつけられ、そんな子供みたいに怒らなくてもと自分のことは棚に置いて苛立つ優奈。
素直に謝る気などあれよという間に失せ、反抗的態度を全面にフンッと顔を背ける。
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