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「少しは落ち着きましたか?」

「はいっ! かなり生き返りました!」

「ふふ、それは良かった。…では、これから質問にいくつか答えて頂いて宜しいですか?」

「はいっ、どうぞ」

「…まず…、何かアレルギーはありますか?」

「いえ、何もないです」


そんな感じで簡単な問診が始まり、私は次々と健康アピールをしていった。


質問を出す男の声は柔らかくて落ち着いてて、凄く心地いい。

そのせいなのか、だんだんと瞼が重く意識がまどろみ始めた。


「次の質問ですが…、山宮さん? どうしましたか?」

「ごめんなさ…なんか…凄く眠くて…」


気を奮い立たせようとしても全く言うことがきかない。

異常なくらい思考が溶かされていく。

…なんで…? あんないっぱい寝たのに…。


「新しい睡眠薬は効き目良好のようですね」

「…え…?」


男の言葉を理解できないまま、私はプツリと切れるように意識を手放した。

 












……な に……ここ…? 真っ白…


──ガチャッ


「…っ!?」


なっなんでっ? 体動かな……って裸!?

何これ? 何これっ!?


「ぃや…っいやああぁーーーっ!!」


私は力いっぱい全身を身じろがせた。

でもガチャガチャ金属音が響くばかりで体はビクともしない。


変な一人掛けの椅子に座らされ、セックスで下になってるときみたいに股を大きくさらけ出してる体勢で両脚をガッチリ固定されて、両手は頭の上でひとまとめに背もたれに拘束されている。

腰にはベルトが巻かれていて、唯一動かせるのは頭だけ。


辺りは真っ白。

天井も床も壁も汚れ一つない白で、照明が怖いくらいギラギラと私の体を照らしている。


そばにあるテーブルの上に何かがまとまって置かれていて、白い布がかかっている。

それよりも先に、その隣りにある銀色のトレーの上の注射器が目に飛び込み、私は引きつった悲鳴を漏らした。


状況が何もわからなくて涙と震えが止まらない。


あまりの恐怖に頭がおかしくなりそうになったそのとき、視界の隅にあった白いドアがゆっくりと開いた。

 



「おはよう御座います」

「…っあ…!」


現れたのは私を迎えに来た製薬会社の男だった。


“ここはどこ!?”
“なんでこんなことになってんの!?”
“やだっ、こっち来ないで!こんな格好見られたくない!”


叫びたい言葉が頭の中でグチャグチャになってまともに声を発することすらできない。


そんな私を無機質な眼鏡のフレーム越しに見据えながら男は私のもとへ悠々と歩み寄ってくる。

本能的な恐怖心が駆け巡り、私は全身を固く強ばらせた。


「ひっ…!」


真横にまで来た男が不意に手を伸ばしてきて、とっさに目を閉じ肩をすくめる。

…けれど、何をされるのかと身構えていた私に降ってきたのは、とても柔らかくて優しい感触だった。


「そんなに怯えないで下さい」

「…へ…」


頭を包む大きな手。

あやすように髪をとかされ、ほんの少しだけ恐怖の和らいだ私はそっと顔を上げて男を見上げた。


「緊張すると、薬の廻りが悪くなってしまいますから」

「……っ!?」


ニコリと微笑む男を見開いた瞳に移したまま私は凍り付く。


…こんな状況で、頭を撫でられたくらいでなにを安堵していたんだろう。

間抜けな私は男の悪魔のようなその囁きによって、更に深い恐怖の奈落へ突き落とされた。


「…っく、薬…って何…!? やだっいやあーーっ!」

「ああ、今の一言は余計でしたね」

「やああぁっ!なんなのよここっ!離してっ助けてぇぇぇーーーっ!!」


枷をガチャガチャと忙しく響かせて必死に暴れる私を尻目に男はのん気に笑いながらテーブルへと足を向けた。


…そして真っ先に手に取ったのは、さっきから嫌なくらい目についていた小さな注射器。

これからされることを考えなくても察知した私は、丸出しになってる胸が豪快に揺れようがなりふり構わず全身をよじらせ拘束具に抗った。


「大丈夫ですよ。この薬は実用段階までクリアしているので危険性は全くありません」

「やだっやだぁあっ!やめてっ来ないでぇ!いやああぁぁあっ!!!」


危険性がないなんて言われたって、なんの薬かもわからないものを大人しく受け入れられるわけがない。

鋭い注射針を向けられ、私は一層激しく体を揺さぶり抵抗を続けた。

 

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