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「そんなに暴れていると違う場所に刺さってしまいますよ」

「ひぁっ…!やっやだ!離して!助けてっ誰かぁーーーっ!!」


腕を掴まれ、いよいよ窮地に追い詰められる。

私はなんとしても打たれまいと、別の所に刺さると脅されようが抵抗を止めなかった。


…すると、男の口からフゥと短い溜め息が漏れて、それと同時に私の腕を掴む手が離れていった。


「やはり山宮さんはとても気丈な方のようですね」

そう呟いて男はあっけなく注射器をテーブルの上に戻す。


…え…、うそっ、もしかして、諦めてくれたの…っ?


さんざん暴れた体を休め、このまま解放してくれるんじゃ…という期待を胸に男を見詰める。


そうして次の行動を待ちわびる私に向かって、男は感情の読めない涼しげな目元を細めてニッコリと微笑んだ。


「事前に打っておいて正解でしたね」

「…は…っ?」


──事前に…打った…っ!?


ささやかな希望が一瞬にして打ち砕かれていく。

目の前が真っ暗になるような感覚を感じながら、私はカタカタ震える口を気力で無理やり開いて男に問い返した。


「う、打ったって…ほ…っ本当に…!?」

「はい。ちょうど30分前に」

「……っ」

「もう少し量を追加したかったのですが…山宮さんがあまりに拒絶するので諦めます」


…もう手遅れ…

今までの抵抗は無駄な努力だったってこと…っ?


出し切っていたと思ってたはずの涙がドッと溢れ出して次々と体にこぼれ落ちていく。


「…く…ッ、ぅ、う…っ」

絶対的な恐怖が全身を硬直させて、喉が引きつり声が出せない。


そんな言葉を失った私を放って、男はテーブルにあったノートを開くとカリカリと素早くボールペンを走らせ始めた。


「効き目が表れるまで思っていたより時間がかかりますね…。この薬はまだまだ改良が必要のようです」


…効き目って何…?

これから何が起こるの…?

どうなっちゃうの私の体…っ


「や…だ…っ、こゎい…助け…、っ…!?」


子供みたいに泣き喚きかけたその瞬間、突然心臓が一度だけドクンと大きく跳ね上がった。

それを機に血液を急速に体中に巡らせるような重い脈動が始まり、体が瞬く間に火照っていく。


…何…なんなのこれ…っ!?


沸き起こる感覚に私は眉を潜める。


快楽を得ているときみたいな浮遊感。

枷がこすれてヒリヒリしてた部分が熱をもって痺れ始めて、股の奥がそれに反応してズクズクと疼く。


…なんでこんなときに…っ


絶望的な現状とは裏腹にどんどん淫らになっていく体。

ついには心まで欲火にさらわれそうになって、私はなんとか気を奮い立たせようとキツく唇を噛み締めた。

「ようやく効いてきたようですね」

「…っ!」


男の声が耳に届いてまた心臓が大げさに脈打つ。


…ただの声にまでこんな反応するなんて…本当にどうしちゃったの私の体…っ!?


「注射した薬が何か、わかりましたか?」

「…っわ…かんなぃ…っ」

「性機能の働きを強制的に促進させる催淫剤です。…媚薬と言った方がわかりやすいでしょうか」

「び、やく…っ?」


媚薬ってあの、Hになるっていう薬…!?

そんな…、彼氏と興味本位で色々試してみたことあるけど、こんなあからさまな効果なんて出たことなかったのに…っ


「どうですか? 体の具合は」

「あっ…!」


男の手が髪に触れた途端、ムズムズとくすぐったい痺れが体中を駆け巡った。

とっさに顔を背けたけれど、細い指はすぐさま後についてきて髪に差し入り、耳元の髪を掻き上げて耳にかけてきた。


「やっ…! ぁ…っ」


露わになった耳の輪郭を爪の先がゆっくりとたどっていく。

カリカリと細やかに掻かれる感触に震えが止まらず、拘束具が嘲笑うように甲高い金属音を立てる。


「今の気分を教えて頂けますか?」

「ふぁっ…!!」


耳からなだれ込む感覚に脳がとろけそうになってた最中、男が顔を寄せてきたかと思うと唇と耳が触れ合うスレスレの所でそう囁かれて、私は今まで以上に大きく体を跳ね上がらせた。


その声はもちろんのこと、静かな吐息や薬っぽさの混じった男の香りまで過敏になった体は甘い刺激として感知して淫情を生み出してしまう。


「恥じらわず率直に教えて頂けるとレポートがとりやすくて有り難いのですが」

「ひっ、あ…! ぁっ、んん…っ!」


私の反応を見てどれだけ敏感になってるかぐらい分かってるくせに男は執拗に軟骨から耳たぶまで爪先を滑らせながら耳元で囁き続ける。


抑えのきかない快楽に震えながらも私は、もうこれ以上コイツの思い通りにはさせるかとギュッと唇を固く結んで反抗を示した。

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