一夜の獣に 01 02 03 04 05 06 07 08

バイト先で出会った彼氏に今日、メールで別れを告げられた。

他に女ができたんだそうな。

きっと1ヶ月前に入ったピチピチキャピキャピなあの子だろう。


アイツは仕事中に隠れてイチャイチャするのが好きなアホだった。

今日はあの子とシフトが一緒だから、今頃ネチョネチョやってんでしょ。


…あーあ。誰か放火でもしてくんないかな。


ていうか明日どうしよう…。仕事行きたくない。

私は何も悪いことしてないのになんで私が居づらくなんなきゃいけないの?

店もアイツらも全部丸コゲになってくれないかな…。あーあ…死にたい。



アイツからのハートだらけのメールを全部消去して、私はボンヤリと天井を見上げた。


目を閉じるとアイツらがアンアンしてる姿が勝手に浮かんでくる。

消えろ。消えろ。死ね。死ね死ね死ね地球割れろ。あーーもう嫌だ誰か私の脳みそ取り出して。なんかめちゃくちゃになりたい。ああんファックミー。


パチリと目を開けて、私は衝動的に携帯を取って昔使ったことのある出会い系サイトにアクセスした。


無心で投稿ボタンを押して文字を打ち込む。


『誰かチンポぶち込んでくれませんか』


投稿し終わると、1分も経たない内にメールがなだれ込んできた。


『今から会える??』
『エッチしょ☆』
『俺の極太バナナをぶち込んであげる♪』


…なにがバナナだ。アホか。

どいつもこいつも馬鹿丸出しの猿ばっかり…。

一発サクッとヤって吹っ切れよーなんて思ってたけど…なんかアホらしくなってきた…。寝よ。


ため息を吐いて携帯を閉じようとしたそのとき、また1通の猿メールが到着した。


今度はどんな内容なのかと何気なく開いてみると、そこには絵文字一つない淡々とした文が連なっていた。

『初めまして樹といいます。38歳のごく普通の会社員です。率直な内容に惹かれメールさせて頂きました。・・・』


なんともかしこまった挨拶から始まり、そして都合のいい時間帯やらの後、それではお返事お待ちしております。となんともかしこまった文で終了。


他の男とは違う大人すぎるメールに私は不覚にも引き込まれていた。


…あんなクソビッチな投稿にここまでまともなメール送ってくるなんて、一体どんな人なんだろう…。


ふつふつと湧いた興味に突き動かされ、私は恐る恐る返信を押した。



・ ・ ・ ・ ・


「初めまして」


指定した待ち合わせ場所に止まっていた車に乗り込むと、メールで言ってた通りのごくごく普通な男が爽やかな笑顔で私に会釈してきた。


「近くのホテルで大丈夫ですか?」

「あっ、はい…」


彼の性格を表すように車はなだらかにホテルを目指して進んでいく。


「少し、緊張してますか?」

「えっ? えーと、はい…」

「僕も結花さんがとても可愛らしい方なので結構緊張してます」

「ええっ! 嘘だぁっ!」

「あはは、本当ですよ」


私に向けられた穏やかな笑顔はどう見ても余裕しゃくしゃくそうにしか見えない。


こういういかにも大人な感じで落ち着いてて優しそうな男と親密なご関係になったことなんて一度もない私は妙な緊張感が込み上がって、かりてきた猫のようにカチコチに委縮してしまっていた。


「あのっ…なんで私なんかにメールしたんですか?」

「結花さんの投稿は他のに比べて明らかに浮いてましたからねー。たくさんお誘いが来たでしょう?」

「はい…かなり」

「下心も十分ありますが、こんな大胆な投稿をするなんて、どういう女の子なんだろうって単純に会ってみたいと思ったんです」


下心とか笑顔でサラリと言っちゃう所にやっぱり大人の余裕を感じさせられた。


…なんか…まともな人すぎてあんなクソビッチな書き込みした自分が恥ずかしくなってきた…っ!

こんないい人ならもっと普通に出会いたかったよ!

うわぁーっ1時間前に戻りたい…!!

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