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勝手に夢見て、勝手にガッカリして…。

どんだけ浮かれてるんだ私は。


馬鹿みたいにはしゃいでいた自分を叱咤して、現実はこんなもんだと言い聞かせる。


「ごめんねっ、今までこういう話できる友達とかいなかったから、調子のって一方的にべらべら喋っちゃって…」

「いや」


…その“いや”にはどういう感情が含まれているんだろう…。

表情がないせいで夏見の考えてることはもどかしいほど読みにくい。


「私…っ、夏見ってもっと取っ付きにくい奴かと思ってた! でも、色んな話できてすごい楽しかった…っ」


夢見ちゃいけない…と言い聞かせてたはずなのに、やっぱり少しでも仲を深めたいという浅ましい欲がどんどん心を侵食して、私は必死に彼を繋ぎ止めるようなことを口走っていた。


…夏見はどう思ってるの?

楽しかった? 面倒くさかった? 私、ウザい?


「うん」


…“うん”だけじゃよくわかんないよ!!


「だから、夏見はさっ、その近寄りがたそーな雰囲気取っ払って、もっと表情豊かにしたらすっごいモテると思うよっ?」

「別にモテなくていい」

「…あ、そう。余計なお世話でしたね…」

「…これも、余計なお世話だろうけど」

「え?」


「セックスするときは、まんこ壊れないように気を付けろよ」


「……っ!?」


…えっ!!?

なっ…こっ…、今!?

このタイミングでそれ言う!?


「そっ!やっ…あれっ!」

「落ち着け」

「…やっぱり、聞いてたのっ!?」

「聞こえてた」

「いつからっ?全部!?」

「多分全部」


相変わらず涼しげな面持ちで夏見はとんでもないことをサラリと言ってのけた。


乙女チックにきゅんきゅん言ってた心臓がとたんに爆発して身体中を激震させる。


…最後の最後で、なんてこと言ってくるのこの人は! 鬼か!?


「あのっ、ちがっ…あれ、あれはっ!」

「落ち着け」

「だっ…誰にも言わないで!お願い!」

「言わないよ」

「ほんとにっ?」

「その代わり、広瀬が作った万華鏡今度見せて」

「…へっ…? 万華鏡…でいいのっ?」

「参考にする」

「いいよっ!万華鏡なんて、いくらでも見せるよ!お見せ致しますよ!!」

「…じゃあ、次俺が理科室掃除のとき」

「うんっ…わかった…!」


私の下品な喘ぎ声を聞かれたこと、また放課後夏見に会えること、夏見が私の作った万華鏡を見たいといってくれたこと、

色んな気持ちが溢れかえって、抑えきれない激情が涙になって目尻に滲む。


…ヤバい。今泣いたら変な女だって思われる…!変な女だけど!


私は涙を引こうと慌てて俯き、ぎゅっと目を閉じた。


「…まんこ壊れそうなのか?」

「んなっ…!違うよ!あれはっ、あのっ、あれはっ」

「だから落ち着けって」

「…っ…!」


その瞬間、私は思わず悲鳴を上げそうになった。


…夏見が、笑った。


不敵でちょと生意気な、子供っぽい笑顔。


…なんだ、そんな人間らしい顔もできるんじゃん…っ。


表情が緩んだのはほんの一瞬だったけれど、私の心にはその1コマがしっかりと焼きついた。



夏見と別れて家へと向かう間、今日の出来事が頭の中で何度も何度も繰り返され続けた。

いつも、カズヤとやることをやって一人で帰宅するときは石を背負ったみたいに体も心も重いのに、今なら宙に浮けそうな気さえする。


夕日が一面をキラキラと照らしている。

まるで万華鏡の世界にいるみたいだ。


ちょっと角度を変えるたびに表情を変える、刹那的で艶やかな光。


できることならば、もっと、ずっと、このまばゆい世界の中で溺れていられたらいいのに。




続く。

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