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「…何?」
部屋のドアの前で立ち止まった宗太くんが表情のない顔を私に向けて呟く。
「前に私に言ったことは本当なの?」
そう言い返すと宗太くんはあのときと同じ冷たい笑みを薄く浮かべてドアを開けた。
「中で話すから、入って」
言われるがままに私は部屋に足を踏み入れた。
初めて入る宗太くんの部屋。
シンプルなベッドとタンスと机。
必要最低限のものしか置いてないのと、家具がどれも古びてるせいか、部屋の中はなんだか寂しい雰囲気に包まれていた。
「あの話は本当だよ。俺は小さい頃から、気に食わないことがあればすぐにめちゃくちゃにぶん殴られてた」
「…そんな…っ」
「あの人が本性を出す前に、早く別れた方がいい」
私を真っ直ぐに見据えて、宗太くんはキッパリとそう告げた。
「で…でも、もし別れて前の暮らしに戻ったら…宗太くんはまた酷いことされちゃうんじゃ…」
「俺のことは気にしなくていい。柚希さん達を不幸な目に合わせたくないんだよ」
強い口調で訴えかけられ、私は言葉を詰まらせた。
こんなに優しい人なのに、宗太くんだけ辛い目に合うなんて…耐えられないよ…っ。
花野さんが何か悪いことをしたら、宗太くんと協力して証拠を掴んで訴えたりもできるかもしれない。
それに…もしかしたら花野さんは本気でお父さんのことを好きになったってこともあるかもしれない。
だってやっぱり、どんなに思い返してみても花野さんのお父さんに向けている笑顔は偽物には見えないんだもん。
「ねぇ…花野さんが、お父さんに出会ったことで改心したってことはないかなぁ…?」
「……え?」
「だって2人とも本当に心の底から幸せそうだよ…っ?
花野さんの気持ちは真っ直ぐにお父さんに向いてる。だからきっともう宗太くんに酷いことしないんじゃないかな…。
それなら私はこのままでもいいかなって思うの」
「………」
…少しの間の後、宗太くんはフラフラと力無くベッドに座り込んだ。
肩が小刻みに震えている。
…泣いてるの…?
「宗太くん…」
私はそっと歩み寄って、震える肩を撫でた。
「…今までずっと辛かったよね。でも……、ッ!」
突然、肩に置いていた手を掴まれ私は息を呑み込んだ。
「あんたってホンット馬鹿だよな」
そう言って私を見上げた宗太くんの顔はどす黒く歪んだ笑みを湛えていた。
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