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「いいねぇー、その顔っ! ちょー興奮する」
「こっ、来ないでっ…!」
「その怯えまくった声もいいねーっ」
「でも騒がれたらヤバいから、さっさと口塞いどくか」
もう一人の男が「そうだな」と相づちを打った瞬間、二人が一斉に私に向かって駆け出した。
一息遅れて私も走り始めたときにはすでに二人は私の目の前まできていた。
制服を掴まれ、あらがいようのない力で強引に引っ張られる。
そして視界がグルリと反転し、私は全身を床に打ち付けた。
「ぁ…っ!」
私の上に馬乗りになって、男は私の両手を抑え込む。
“助けて”
力いっぱいそう叫びたいのに、声が出ない。
かすれた空気だけが喉から絞り出される。
「おい、カズヤ。ガムテープかなんか、口塞げそうなもん探せ」
「あっ、はい!」
いやだ。こんな奴らにいいようになんてされたくない。屈したくない。
そう強く反抗心をたぎらせているのに、瞳から降伏を示すかのような涙が流れ出した。
涙の勢いは止まらず、だくだくと溢れて目の前にいる男の下品な笑い顔を歪ませる。
「まだなんもしてねーのに、もう泣いてんの?」
私の涙に良心が痛むなんてことは欠片もないらしい。
それどころかますます熱気立った様子で二人は耳障りな笑い声を上げた。
助けて助けて助けて助けて助けて
思考の止まった脳内でその一言だけが永遠に繰り返される。
「ガムテープありましたー」
「おぅ。ついでに縛れそうなもんも」
男がカズヤからガムテープを受け取る。
意味なんかないとはわかっていても、私は力いっぱい顔を背けた。
“やめて”という懇願さえも声にならない。
…助けて、助けて誰か助けて、助けて…っ!!
私は心の中でそう祈り続けるしかなかった。
ビリッとガムテープの破ける音が鼓膜を揺さぶる。
と、そのとき、ジリリリリリリリッというけたたましい音が更に鼓膜を激震させた。
「なんだこの音っ!?」
「これって、火事のときのアレじゃね?」
空気を切り裂くような激しい音が鳴り止むと、ウーウーというサイレンへと切り替わった。
「「火事です。火事です。二階で火災が発生しました」」
少し機械的な男性の声が教室いっぱいに響き渡る。
「マジかよっ…!?」
…私たちのいるここが当の二階だ。
また新たな恐怖が背筋を急速に凍りつかせていく。
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