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…今までずっと、流されるがままに生きていた報いなんだろうか。
きっともっと早くカズヤに自分の意思を伝えていたら、こんなことにはならなかった。
こうなったのは全部自分のせいだ。
“諦め”という黒くて冷たい感情が心をジワジワと浸食していく。
ここまできたら、もう『早く終わりますように』と祈るしかない。
抵抗さえしなければ酷いことはされないはず。
心を殺して無になれば終わってくれる。
今まで酷いことはたくさんされてきた。だからこれくらい、大丈夫。耐えられる。大丈夫…
冷ややかな涙が伝い落ちる。
大丈夫大丈夫と何度も自分に言い聞かせて、私は静かに目を閉じた。
──ガラガラッ!
意識が真っ暗な闇に堕ちようとしていたそのとき、何度も耳にしたドアの開閉音を聞き、私はとっさに我に返って目を見開いた。
「…なっ…!!? お前ら、何やってるっ!?」
野太い男性の怒鳴り声が、地響きのように周囲を揺らす。
聞いた瞬間、反射的に姿勢を正してしまうような聞き覚えのある声色。
見ると、体育教師の野竹先生が鬼のような形相で私たちを睨みつけていた。
180pを超える鍛え上げられた体に敵う生徒は誰一人としていない。
男たちは、蛇…いや、虎に睨まれたネズミのように青ざめてその場に固まりつくしていた。
・ ・ ・ ・ ・
それからカズヤたちは職員室へと引きずり込まれ、私は女の先生に付き添ってもらいながら保健室へ案内された。
パイプ椅子に座り、保健の先生が淹れてくれたお茶をぼんやりと見つめる。
…怖いくらい気持ちが落ち着いている。
色々なことがありすぎて思考が今の状態を把握するまで追い付いてないんだろうか。
もしかしたら、家に帰って一人きりになった頃くらいに感情が一気に溢れ出して苦しむことになるのかもしれない。
…とにかく私は助かった。
火災警報のおかげだ。それを聞いて先生たちが見回りに来てくれたから見つけてもらうことができた。
「…あっ、そういえば火事ってどうなったんですか?」
「ああ、あれは生徒が間違って押しただけみたい」
「えっ? そうなんですかっ…?」
じゃあ、私はその人に助けてもらったようなものだ。
不意に“彼”の姿が脳裏をよぎる。
…いやいやいや、そんな都合のいい話があるわけない。
いつまでもお花畑な自分の脳を叱って、私は立ち上がった。
「私、もう帰ります」
「えっ、一人で? お家の方に迎えに来てもらった方が…」
「大丈夫です。家も近いので一人で帰れます」
先生が心配にないように笑顔を作って、これ以上言い詰められないようにそそくさと保健室を出た。
警報を鳴らしたのが誰なのか知りたい。
私は駆け足で職員室へと向かった。
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