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「ばか、ばかっ…うぅぅーっ」


途方もないくらい嬉しいのに、気持ちの整理がつかなくて悪態ばかりが勝手について出てきてしまう。


せっかく好きって言ってもらえたのに、こんなんじゃ嫌われてしまう。

そう焦ると余計に涙がこぼれて、感情を落ち着かせることができなくなっていく。


「ごめん」


そんな治まりのつかないくらいささくれ立った心を、ふと聞こえた夏見の柔らかな声がふわりと撫でた。

そしてうつむかせた頭に手のひらの優しい温もりが降りてきた。


氾濫していた心が嘘のように静まり始め、私は泣きじゃくりながら恐る恐る両手を夏見の背中に伸ばす。

すると、私よりも先に夏見が私の背を抱いて引き寄せた。

体温や鼓動を感じながら、私も夏見の背中をギュッと抱きしめる。


…このまま時が止まってしまえばいい。

そう思ってしまうくらい私はこれまでにないほどの幸せに包まれていた。


「…広瀬は?」

「へっ?」


耳のすぐそばで囁かれ、甘い陶酔感に浸りつくしていた私は大げさなくらいビクッと肩を跳ね上がらせる。


「なっ、なに…が?」

「俺のことどう思ってるの」


“私も夏見が大好き”

すぐにでもそう返したかったけれど、気恥ずかしさが邪魔をして言葉にすることができなかった。


思えば、誰かに「好き」と声にして伝えるのは初めてかもしれない。

妙な緊張が全身に走って、体が強張っていく。


「っわ、私も…っ!」


…ここまできて内気に戻ってどうするの…!

まごつく自分を自ら叱咤してなんとか声を絞り出す。


けれど、それから先を続けることができない。

頭の先がジンジン痺れるくらい火照って、心臓がけたたましく早鐘を打つ。


「…すっ…、す…っ…!」


今までにないくらいの緊張に喉が引きつって声が上ずってしまう。

大切なことはちゃんと口で伝えるもの、って偉そうに言った自分がこんなことになるなんて…っ

焦れば焦るほど「好き」の二文字に重みが増していき、喉元まで込み上がった言葉が胸まで逆戻りしていく。


私だってちゃんと言わなきゃ…!

そう意を決して、緊張を少しでも解きほぐそうと一度息をつく。

…と同時に、火照った思考を冷ますような夏見の冷たい指先が頬に触れた。


「……っ!!」


顎を引かれ、上を向かされた途端に深く唇を奪われる。

痺れを切らした、というような荒っぽい口づけだった。

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